作家で釣りの大好きだった開高健氏の著作。
「私の釣魚大全」
1978年刊行 文春文庫
ベトナム戦争の特派員だった開高氏が帰国後に雑誌に連載していた
記事をまとめたものです。
ミミズを掘る話から始まり、メコン川での釣りなど国内から海外
まで幅広い体験が豊富な語彙で語れます。
私は20歳頃に読んだのですが、当時、日本一美しい釣りに関する
文章だと評された一節がどうしても忘れられないので、今回この
エントリーを書いている次第です。
ドイツの高原を流れるクリーク(小川)で釣りをした際に、
地元の少年が着かず離れずに一緒に歩いてきます。
彼は開高氏に話しかけたいのですが中々切っ掛けが掴めないのです。
その内、姿が見えなくなったと思うと再び現れた少年は一握りの
ミミズを差し出します。開高氏は彼の小さな手にそっと日本の
唐辛子ウキを握らせます。
なんと言う素晴らしいシーンでしょう。
読後、数十年経つのに私の中では全く色褪せません。
そして、数年前に幼馴染の友人(彼も当時この本を読んでいた)
にこのシーンの話をしたところ、私以上に鮮明に記憶していて
大変嬉しく思いました。
釣りのスタイルは十人十色。
長い釣り人生の一時は数やサイズに拘るのは仕方がありません。
しかし、私としては晩年は釣果では無く忘れられない一日と
なるような時間を過ごしたいのです。
それは、雨に降られて岩陰で雨宿りをしながらただ川面を
見つめていた~と言う様な経験かもしれません。
もうこれだけ長い間、釣りをしていると釣らないことも
釣りなのですw
コロナウイルスが収まったら、そんな思いを胸に近所の川に
行きたいものです。